DX(デジタル・トランスフォーメーション)に呼応するように注目されているのが、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)です。
DXほど認知度は高くないSXですが、企業戦略には欠かせないものになって来ています。
ここでは、SXとはどのようなものか、その登場の社会的な背景を解説します。とりわけ『稼ぐ力』がなぜ求められるのかを、世界と日本の現状から明らかにします。
SXとは何か
サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)と言う言葉は、2020年8月の経済産業省の提言「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間取りまとめ~サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の実現に向けて~」から始まった、新しい経営のあり方についての呼び方です。
この経済産業省の提言は日本の企業の収益性向上の鈍化に警鐘を鳴らす「伊藤レポート」(2014)と呼ばれる報告書に端を発しています。
とてもわかりやすい表現で日本企業の弱点を指摘した報告書でした。
『稼ぐ力』が、落ちていると言う指摘です。
稼げない→投資ができない→更に稼げなくなる→投資が益々できない
と言う、負のスパイラルに陥ってしまう。
これを断ち切るための“エクスカリバー”(聖剣)が必要だと言うことです。
この剣として登場したのがSXです。
企業でも国家でも収益(儲け)は必要です。国の場合には税収が基本となりますから、高額納税者の企業の儲けが伸び悩めば国も困ります。企業と国の大きな違いは、継続性の質です。
ここで登場する概念が「サステナビリティ」です。
単純な継続性ではなく「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たす」(国際連合:環境と開発に関する世界委員会[WCED]1987)必要があります。
このサステナビリティを現在のコロナ禍のような未曾有のクライシス(経済上の危機や重大な局面)の中でも貫く変革が求められていると言うわけです。
(出典:経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間とりまとめ」p.11より
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/sustainable_kigyo/pdf/20200828_3.pdf)
SX登場の社会的背景
企業と同様に国も会社経営の側面から考えると「営業利益」が必要です。
日本の営業利益の推移(製造業業種別)を見るとここ数年の低迷は、“株式会社「日本」”としては頭の痛いところです。
(出典:「2020年版ものづくり白書」図111-6営業利益の推移[製造業業種別])
どのような企業でも売り上げが伸びず収益が落ちれば資金調達が必要になります。
そうすると外部(銀行や投資家など)からお金を借りて会社のやり繰りをしないといけません。
そこで投資してくれる人々(企業)が何を基準にお金を貸してくれるかが問題になります。
ESG投資
ここで脚光を浴びるのがESG投資です。
現在のESG投資の金額は、世界的には85兆USDを超えています。
シンクタンクの予測では2025年には実に全世界の運用資産残高の1/3がESG投資になると言われています。
ブルームバーグ(ニューヨークに本社を持つ経済、金融情報の配信、通信社、放送事業を手がける米国大手総合情報サービス会社)は、2025年に世界の運用資産残高140.5兆USDのうち、ESG資産は53兆USDと予想しています。
(出典:「SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書2019年6月 経済産業省」より抜粋
SDGsとSXの関係
SXが注目される背景にあるESGの世界的共通目標がSDGs (Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)です。SDGsは国連が主導するだけに、各国政府も国境を越えて存在する多国籍企業も無視できません。
ESG投資の対象となる企業はSDGsを掲げ、企業戦略の基本にサステナビリティがなければ選ばれる存在から外されてしまいます。SDGsの評価基準の一つとしてESGがありますので両者は不可分の関係にあります。
SDGsの17目標169ターゲットは、「バックキャスト」と言う考え方に基づく逆算の発想でゴールからスタートラインを観る考え方です。
事業目標の設定や売上高の設定は、企業経営や事業計画では当然のごとく履行されて来たことです。このことに、社会課題の追求にようやく歩調が合ってきた状況です。
SDGsとESGは一つの目標に対して違う側面や視点でアプローチをする「登山隊」のようなものです。エベレストの登頂に幾つものルートがあるように、サステナビリティの目標を社会活動と経営活動が共有できるようにルートが整備され始めたところです。
SDGs ?? サステナビリティ ?? ESG
(※作図は筆者による)
企業と投資家の共通言語としてのSX
この苦しいコロナ禍の世界情勢の中で倒産せずに存続するためには、投資家の理解を得なければなりません。
そのためには、双方向で企業と投資家が話しあえる必要があります。その共通言語とも言えるものがSXなのです。この言語体系をまとめようと進められているのが『価値協創ガイダンス』です。
そのために新たな研究会(「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」2021年5月28日)も発足されています。
まとめ
多くの企業が取り組み始めたDXは、近視眼的な経営の効率化と労働生産性の向上を目指したものになりがちです。
DXだけでは、震災やコロナ禍の事態のような想定外の事業環境の変化に対応できません。継続的・持続的に強みが発揮できる事業体制を整えるためにはSXの視点が求められます。
企業活動をICTの導入とデジタル化によって、DX推進を加速することはできますが、同時にSXの取り組みになるわけではありません。
大切なのはDXとSXの共通点と違いを理解しながら、新しい経営活動に取り組むことではないでしょうか。
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澁谷さくら(AIさくらさん)
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