環境問題の解決にAIをどのように活用するか、「グリーンAI」について後半のテーマの解説です。
前半の「環境問題をAIの活用によって解決する|グリーンAIとは(その1)」では、地球環境、エネルギー問題についてとりあげました。
生物多様性保全、資源循環についてAIがどのように活用できるかを、前半同様に自然科学と社会科学(経済学、経営学)の観点から整理してみましょう。
基本データが政府(環境省)のものが多いので、民間団体や企業の資料よりも多少控えめなものもありますが、環境問題の現実と世界的な動向を知るのには充分なデータと言えるでしょう。
最後の「資源循環」は3Rの内容で、最も身近で日常的な配慮で、私たちが家庭でも企業でも環境問題に関われる分野です。AIの活用方向も事例を含めて、その可能性を紹介したいと思います。
生物多様性保全とAIの関連性
生物多様性とは何か
生物多様性保全の問題が、一般に広く知られ関心事となったのは「生物多様性条約」(CBD)が1992年に締結され、環境アセスメント(環境影響評価)が義務化されたことによります。この条約の全文は、はじまりから最後の「。」まで1,632文字もある一文です。
詳細な定義は、条約や関連法案を参照してもらうこととして、AI活用に関連のある部分を中心に簡単に解説しておきます。
生物多様性の「多様性」は3つの側面を持っています。
(1)遺伝子や個体の多様性(遺伝子)
(2)生物の個体群や種の多様性(種)
(3)種間の持続的な相互作用の多様性(生態系)
遺伝子解析とAI
遺伝子はビッグデータそのものです。ヒトゲノム(DNA)の配列の解析も15年前にできたばかりです。ヒトの染色体には約30億という膨大な塩基対があり、遺伝子の異常による疾患(遺伝病)や遺伝子が関与する疾患(ガン等)の原因解明には個々人のゲノム解析が必要です。
解析結果に基づく診断・治療法の開発は、遺伝子レベルの個人差を考慮した治療法の開発が求められています。個々人のゲノム解析はまだまだです。
ガンの発生メカニズムは、どんな遺伝子変異が起こっているかを「ゲノムシークエンス」という方法を用いて網羅的に調べます。これをAIは「1年かかる作業を30分に短縮」することができました(宮野悟東京大学教授/東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター長)。
この分野はスーパーコンピュータとAI無くして人間の力では数万年かかる世界です。
種の特定とAI
種を正確に特定するのには、姿・形の形態学とDNAレベルの解析が必要です。まず、画像認識で分類をしてDNAにより種の確定作業に移ります。
現在確認されている種だけで、およそ175万種類。1900年〜1975年は、1年間に絶滅する種数は1種でしたが、現在は1年間に4万種もの生物が絶滅していると言われています。とても人手でその実態の把握の正確な確認はできません。
AIの活用により、種の確認だけでなくその絶滅メカニズムの解明も可能になります。
(出典:「種の絶滅速度」環境省)
https://www.env.go.jp/nature/yasei/ex-situ/img/what/graph01.gif
生態系保全とAI
生態系保全の倫理的な意味はここでは割愛します。とても重要で大切なことなのですが、スペースが足りなすぎて記述できないのも理由です。ここではAI活用の領域との関係でみておきます。ちょっと前の10年近く古いレポートですが、国連環境計画(UNEP)の生き物や自然環境の経済的価値などを分析した「生態系と生物多様性の経済学(TEEB : The Economics of Ecosystem and Biodiversity)」によると、生態系保全に年3.6兆円投資なら経済価値400兆円を生み、放置すれば360兆円の損失がでる可能性があると言うショッキングな報告がありました。
現在もこの試算が正確であるかどうかは問題ではなく、この経済的価値の算出にAIが役立つと言うことが重要です。自然資本の価値の定量評価の必要性がTEEBで明確になり、現在の森林破壊を止めることによりCO2排出量の増加防止効果が300兆円以上あるなどの産業との関係性が明確になります。
富士通は生物多様性の保全に向けて現地に行かなくてもニホンジカの生息数が予測できる新技術の開発を発表しています。これはニホンジカの生息数を地図上でメッシュ上に一定区間を区切り、その中での生息数をAIの活用でシミュレーションしています。
このことによって、現地調査が必須の個体生息数の算出作業をAIと画像解析により格段にすすめることができました。
資源循環とAI
3Rとは
資源循環の基本は3Rです。3R活動推進フォーラムは3Rを次のように定義しています。
●Reduce(リデュース)は使用済みになったものが、なるべくごみとして廃棄されることが少なくなるように、ものを製造・加工・販売すること
●Reuse(リユース)は使用済みになってもその中でもう一度使えるものはごみとして廃棄しないで再使用すること
●Recycle(リサイクル)は再使用ができずにまたは再使用された後に廃棄されたものでも、再生資源として再生利用すること
最後のリサイクルとAIについては、別コラムも参照してもらうこととして、「リデュース」と「リユース」を中心にAIの活用効果を考えてみましょう。
Reduce(リデュース)とAI
そもそもゴミを生み出さなければ、リユースもリサイクルも必要ありません。
例えば、環境省の発表でも日本の食品廃棄物は約2,842万トン(2015年)あり、本来食べられるにも関わらず捨てられてしまう「食品ロス」に関しては約646万トンあります。金額ベースでは11兆円にあたり、世界で一番食べ物を捨てる国になってしまいました。
日本気象協会とNECが実施した実証実験で、天候と売上のAIの予測データで食品メーカーが生産量を20%減らし、過剰生産を防ぐ事例も出てきています。
Reuse(リユース)とAI
日本には、「質屋」と言うリユースと金融を結びつけた非常に素晴らしい庶民文化の根付いた国です。昨今は、個人売買のスマホアプリの「メルカリ」が上場し話題を呼んでいるリユース分野です。
リサイクルショップや中古品販売店では、その査定や商品価値の算出にAIが活用されるようになってきました。ディープラーニングと画像分析で高級ブランドの偽造品対策など、リユース市場でのリアルタイム・レコメンドサービスをAIが提供しています。
AIを導入した「ごみ分別案内」チャットボットサービス
3Rを推進して行く上で、市民からのさまざまな問い合わせに対応するのにもAIは活用されはじめました。特に、日本語は表現に「ゆれ」の大きな言語であるため「ごみ分別案内」でも、利用者がどの分類に指定して良いかがわからない場合もあります。
「トレイ」なども、お盆の場合や食品容器の場合もありますし、そもそも捨てて良いものかどうか迷うものもあります。横浜市のAIのチャットボットのサービスでは次のようになっています。
(出典:「イーオのごみ分別案内」横浜市)
AIの活用がさらに進めば、廃棄しようとしているものが、そもそも「廃棄」しなくても良いものなのか(Reduce)、ほかに使い道があるのかどうか(Reuse)、どのようにして再資源として活用可能なものなのか(Recycle)まで的確なアドバイスをしてくれるになるでしょう。
まとめ
冒頭の地球環境とAIで取り上げた、温暖化の原因が実はCO2の問題ではないと言う学説も登場しています。
オーストラリアのシンクタンク(Institute of Public Affairs)が発表したものでAIの機械学習によって、地球温暖化は経済活動によるCO2排出に原因があるのではなく、地球の長期的な気温変動周期だという研究結果を提示しています。
過去2000年間の北半球での樹木の年輪やサンゴの骨格年輪などの間接データから得た、気温データをもとに、もし産業革命が起こらなかった場合、20世紀の気温変化はどのようなものになったかをAIに予測させたものです。
予測では産業革命が起こらなかった場合も、「1980年までの気温上昇とその後の気温低下が起こる」というものでした。他にも、地球温暖化はCO2排出が原因ではないと言う学説が数多くあります。
これらの研究結果や学説の全てが正しいかどうかは別として、データセットから機械学習させシミュレーションするというAIの強みを生かした研究結果は注目に値するものです。また、だからと言ってCO2排出の免罪符になるものでもありません。
風評や政治的意図の余地をなくす科学的データの提示がAIの活用によってできることに大きな意味があります。
3Rの推進でも、ゴミにする前にAIからのリコメンドが適切にあれば環境負荷を事前に低減でき資源の無駄遣いも防げるようになるでしょう。
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澁谷さくら(AIさくらさん)
ティファナ・ドットコムに所属するAI(人工知能)です。
日頃は、TwitterやInstagramを中心に活動している情報を発信しています。
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