そもそも「仕事」とは何でしょうか?

日本語はその前後の「文脈」により、微妙に内包する意味が異なってきます。

「AIが仕事を奪う」と言ったような「AI脅威論」に登場する「仕事」は職業を指すことが多いと思います。
他に「仕事」の指す内容は「労働」「作業」「匠」などさまざまです。

最後の「匠」は、お寿司屋さんなどで聞かれる「大将!いい仕事してるね!」みたいな、英語にすると「preparation」に相当するような概念です。

このコラムで焦点を当てる「仕事」は職業(occupation)ではなく、「work」として考えます。

「仕事」はジョブやタスクの複合体の上位概念です。

例えば上司から「この前の企画会議の内容をまとめて、部長に報告しておいて」と言うような「あるある」の仕事が社内には沢山あります。

この仕事を分解すると、

議事録確認(なければ作成)→論点整理(企画内容の整理)→決済事項の有無→部長の「捕獲」→部長報告→上司へ報告

この一連の流れが仕事で、職種で一番近いのが秘書です。

これがAIに代替えできるかを想像すれば、仕事が無くなるかどうかが容易に理解できます。

AIで仕事は無くなる?~AI脅威論の発端

ことの発端はイギリスのある論文からです。

“THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION ? “

日本語にすれば『雇用の未来:コンピュータ化によって仕事はどのような影響を受けるか?』ですね。

jobは可算名詞なので数えられます。workは不可算名詞なので数えられません。量的変化を伴うものはAIに代替え可能なものが多いですが、質的変化を伴うものをAIが学習することは至難の技です(研究はされていますが)。数えられるものはAIにもできます。

この論文にはさまざまな論評がありますが、AIとの関係で理解しておかなければならないのは、「job=作業」のコンピュータ化の影響から、雇用問題を論じている点です。

この論文では、コンピュータ化の障壁となりうる9つのジョブ特性を基に、各ジョブのスキルを機械がどれだけ自動化できるのか、702の職種を評価しています。

この論文への反証は方々にありますので、ここでは再掲しません。反証の結論だけ述べれば、

「仕事は無くなるのか?」

  ↓

「ほとんど無くならない」

と言うことです。

テクノロジーの進化と職業変遷

職業の変遷は何もAIの登場によってのみ変化するわけではありません。かつての事例では、自動車の発明と普及によって人力車夫の職業としての役割が終わりました。現在も人力車と車夫は存在しますが、職業分類としては「観光業」であり「エンターテイナー」で、運送業として捉える人はいないはずです。

このようなことは、何も日本だけでなく、マイスターのいるドイツでも同様です。かつては「煙突掃除人」は医者や弁護士にならぶ、マイスターとして尊敬され100年前は黒服にシルクハットを被っていたそうです。

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このような事例を見れば、明らかに「AIの登場」で職業が時代から退室していったわけではないことがわかります。

「AI脅威論」の背景にはAIに対する誤解と未理解があります。これは江戸時代のエレキテルを怖がる町民と同じです。

AIによって、職業が変貌したり、仕事の内容が変わることはあっても、AIが人間の仕事を奪うことはありません。それは丁度、電気が普及して産業構造が変化したのと似ています。局所的に見れば「ランプのスス取り職人」はいなくなったかもしれませんが、失業率には影響していません。

AIによって変わるもの

タスクやジョブはAIに代替される可能性はあります。それは労働の効率化であり、産業革命以降、脈々と続いてきた人類の進歩です。

タスクやジョブの圧縮や効率化事例は、かつての「電化」や「電子計算機」の出現と同じです。IoTとの連携やビッグデータの処理では目覚ましい成果を出しています。

新聞でもとりあげられた、東大病院の「AI、がん治療法助言」は膨大な論文を読む「作業」をAIに任せました。医師は自分の「仕事」、人命を救うという大切なミッションを成し遂げたのです。

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ソフトバンクでは「ミッションクリティカルな停止をさせてはならない」という通信事業者必須の通信環境の維持に関連して、AIによって10倍もの効率化を実現しています。

AIにできることは作業であり量的変化の変容です。将棋や囲碁で人間に勝つことはできても、絵(art)を描くことはできません。

AIに「ネコの絵を描いて」と指示して、アクチュエータを装備したロボットがネコの模写をしたとしても、絵を描いたとは言えません。描いたのは図(picture【可算名詞】)です。ちなみにartも不可算名詞です。

まとめ

人間がAIの発達した時代に価値ある仕事を続けるというのは、作業をAIに任せて空いた時間と精神(心)的な余裕で創造的な仕事をすることです。

たとえば、教師の仕事であれば、知識移行型のティーチングはAIに任せ、コーチングのように子どもの潜在能力を引き出す仕事にシフトすることです。

営業担当者もモノを売ることからコト(ソリューション)を売ることにシフトすることです。モノは既に自動販売機やECサイトで売っているわけで、わざわざ人間から買わなくても困らない時代になっています。

仕事は無くなるのではなく、進化し発展していくものです。作業は軽減され危険や重労働から人間を解放してくれます。それを実現してくれるのがAIなのです。

経営者がAIを導入する際のポイントは、今いる人間の代わりにAIを導入するのではなくて、今ある作業を人間の代わりにAIにどのように担わせるかを考えることです。なぜなら、新しい価値や利益は「労働」によってのみ産み出される(アダム・スミス『国富論』)と言う経済学と経営の本質を思い出す必要があるからです。AIは労働しないのです。